カルシウム不足と認知症

記憶力もカルシウム次第

小学生は優れた記憶力を持っています。一方、大人は、まだ若いつもりでも記憶力が少しずつ衰えていきます。特に中年ともなると、覚えている人の顔は頭に浮かんでも名前が出てこないことや、電話番号を忘れてしまうことが頻繁にあります。その程度のことは、「ど忘れ」としてあまり気にしない方がよいのですが、このような物忘れが極度に強くなったのが、いわゆる認知症です。
認知症の中には、脳血管の障害で十分に血液が脳に運べず、脳細胞が壊死する脳軟化症(脳梗塞の病変)が原因となる場合もあります。脳の中でも、記憶を司る大切な場所を海馬(かいば)といい、認知症の代表例であるアルツハイマー症候群では、特にこの場所での細胞が失われて行きます。
脳は神経の総本山ともいえる場所です。そこでは、神経細胞とそれから出る神経線維が集積し、色々な部分で、運動・言葉・記憶などの役割を分担しています。脳の働きも、結局は一つ一つの神経細胞の働きの集まりです。カルシウムは、神経細胞の働きにも決定的に重要な役割を果たしています。副甲状腺ホルモンは、骨や腎臓だけに働くと思われていましたが、脳の神経細胞にも働いていることが証明されました。カルシウムの摂取不足により副甲状腺ホルモンがたくさん出てくると、脳細胞にカルシウムを押し込みます。神経細胞の働きは、もちろん情報を伝えることですから、カルシウムが細胞の中で増えてしまうと、細胞の外と中のカルシウムの大きな濃度差がなくなり、情報を伝えることが出来なくなります。その結果、細胞は本来の役割を果たせなくなります。脳細胞ではカルシウムが増えると、細胞死に至ります。そして、脳細胞は、いったん失われたら再生しない細胞です。他の部分の脳細胞が多少はカバーしますが、失われた細胞の働きが完全に元に戻ることはありません。
カルシウムを十分にとって、脳細胞の中のカルシウムが増えないようにすることが、脳の働きを維持するための有力な方法です。

カルシウムを摂ることが脳細胞を健康に保つ

脳細胞の中でカルシウムが増えるのは、認知症に限らず、脳炎でも脳血管障害でも、脳の細胞が失われて行くときには常に起こる現象です。例えば、脳の外傷や血管障害で、脳に酸素が充分に届かないときにも、脳の細胞の中でカルシウムが増えます。
日頃からカルシウムを十分に摂っていれば、副甲状腺ホルモンが過度に出ることもなく、脳の細胞の中に余分なカルシウムが入ることもありません。心掛けてカルシウムをたくさん摂っている人や、女性ホルモンを服用してカルシウムの吸収を良くしている人には、認知症が少ないという報告もあります。
認知症に関してもう一つ困ることは、夕方になると落ちつかなくなり、外出しても迷子になって、交通事故に遭ったりすることです。これを「たそがれ症候群」といいます。治療・入院中にせっかく自由な時間を楽しんでもらおうと思っても、認知症病棟には鍵を掛けて閉鎖病棟にしなければならないのは、大変残念なことですが、事故を防ぐためには仕方のないことなのです。血液中のカルシウム濃度は、夕方になると少し下り、副甲状腺ホルモンが増えます。これが「たそがれ症候群」の原因の一つです。