カルシウム不足と「アレルギー・自己免疫疾患」

体を守る細胞内の戦争

免疫という言葉が使われ出してから、伝染病に対する認識がすっかり変わってきました。ペストやコレラ、天然痘などの伝染病は感染力が強く、一つの町の住民が皆感染して、町が荒れ果てる程恐ろしいものでしたが、大流行の時でも、不思議にその病気にかからない人がいました。ちょうど、厳しい税の取り立てを免れる人がいるように、ごく一部、発病から免れることのできる人がいたのです。

また、一度かかって助かった人は、二度目の流行に出会っても免疫があるので、その病気にかかりませんでした。ジェンナーがこの原理を使って、毒性の弱い牛痘をわざと注射して免疫をつくったのは、画期的なことでした。そのおかげで、天然痘は今では地上から消えた、という勝利宣言が出されました。予防接種は面倒なものですが、自分だけでなく、他人への感染を防ぐためにも威力を発揮するので、伝染病はすっかり減りました。しかし、エイズのように、予防接種がなかなか作れない病気もまだあります。

免疫は人体に外から侵入してくるウイルスや細菌、異物に対して体を守る仕組みです。一度体内に入ってきたものをよく覚え、自分の体で作られたものか、他から入ってきたものかを区別し、有害な異物は壊し、排除します。そうした迎撃部隊に相当するのがT細胞、B細胞、巨大貪食細胞などであり、情報を交換しながらチームを組んで、その働きを続けます。各々の免疫細胞は携帯電話のようなものを持っており、カルシウムはその電波の働きをしています。

通信網のカギを握るカルシウム

細胞の中には、本来カルシウムはほとんど存在せず、血液には細胞の中の1万倍のカルシウムがあります。細胞にはそれぞれに与えられた役割があり、その役割が果たせなくなると、様々な支障をきたします。そして、細胞が正常な働きをするためには、正しい情報伝達が必要なのです。正常な細胞は真空管にたとえることができます。細胞中にカルシウムがほとんどない真空状態だから、情報伝達物質であるカルシウムに対して迅速に反応することができるのです。もしも、カルシウムの摂り方が不足して、副甲状腺ホルモンがたくさん出てくると、免疫細胞の中にもカルシウムがたくさん入ってしまって、細胞の中と外の差が少なくなり、情報をキャッチする力が弱くなってしまいます。時には混信が起こって誤った情報が伝えられることもあります。免疫は異物=敵から身体を守る為の細胞内戦争のようなものです。カルシウムはそこでのいわば通信網の役目を果たしているのです。

 アレルギーは、免疫と裏表の関係にあります。外からの異物に立ち向かって、これを排除するはずの免疫細胞やそれらが作り出す抗体が、強く反応しすぎて、体に対して有害な働きをするのです。ペニシリンショックは有名な例で、抗原と抗体の反応によって気管支のけいれんが起こされ、生命の危機をもたらすこともあります。

自己免疫疾患というのは、免疫細胞の間の情報交換が混乱して、異物と間違えて自分自身の細胞を攻撃してしまうことです。慢性関節リウマチ、SLE(全身性エリテマトーデス)、血管炎などはこうして起こります。カルシウムパラドックスによって細胞の中のカルシウムを増加させてしまったことが、免疫細胞の間の情報交換を妨げ、混乱(様々な病気)を起こすのです。例えるなら、通信システムが混乱して、誤った情報が伝わり、敵と間違えて関係ない一般市民に対して発砲するような、あってはならないことが自己免疫病です。

免疫システムに不可欠なカルシウム

細胞の中のカルシウムがさらに増えてくると、情報交換はますます混乱して、生活できなくなり、細胞自身が消えてしまうこともあります。エイズが恐ろしいのは、T細胞という免疫細胞がウイルスによって死滅させられてしまうためで、免疫不全の顕著な例といえます。免疫細胞が死ぬ時には、必ず細胞の中のカルシウムが増加します。細胞内でカルシウムが増えることは、細胞死の最終共通経路といわれています。

カルシウム欠乏が細胞内のカルシウムを増やすというカルシウムパラドックスは、細胞の生命にとって、大きな危機をもたらします。カルシウムを充分に摂っていれば、余分な副甲状腺ホルモンが分泌されることもなく、免疫細胞の中にもカルシウムが異常に増えることはありません。感染に対する抵抗力を保つには、日頃からカルシウムを十分に摂ることが、何よりも大切なのです。