世界で初めてカルシウムイオン濃度を可視化(カルシウムイメージング)した、神経科学界のレジェンド的存在、工藤佳久先生のカルシウムのコラム。
先のコラムでは骨芽細胞がコラーゲンとリン酸化カルシウム(ヒドロキシアパタイト)を産生し、硬くて丈夫な骨組織を造り上げる仕組みについて詳しく解説しました。今回は、骨の成長や新陳代謝について考えてみましょう。
人間の身長は産まれた時は50cm足らずですが、20歳くらいまでに3倍以上、170 cm近くにまで成長します。硬い骨組織が成長に合わせて大きくなっているのです。コラム2で、高校生の頃私の身長が、自分でも気付かないうちに凄く高くなっていて、ビックリしたと書きました。しかし、成長期の若い人の中には私のように知らない間に身長が伸びていてビックリしたという人は少なくないだろうと思います。
骨組織についてはもう一つ注目しなければならないことがあります。それは出来上がった骨組織は常に新しい骨組織に置き換える作業(新陳代謝)が寿命の尽きるまで刻々と続けられていることです。
破骨細胞は古い骨組織やコラーゲンを溶かして吸収する。
硬い骨組織を成長させたり、新しくしたりする仕組みの中で重要な役割を担うのが「破骨細胞(はこつさいぼう)」と呼ばれる不思議な細胞です。破骨細胞とは随分乱暴な細胞のようですが、骨の成長と新陳代謝には必須の細胞なのです。
図1の中央に示した破骨細胞を見て下さい(細胞の表面を一部とり除いて中が見えるように描いてあります)。破骨細胞は沢山の核(5個から20個ぐらい)を持ち、「波状縁(はじょうえん)」と呼ばれる不規則なひだや「微小突起(びしょうとっき)」と呼ばれる沢山の細い管を持っている特殊な細胞です。骨組織表面にしっかりと張り付いています。この細胞はミトコンドリアが造り出した水素イオン(H+)(プロトン)を骨組織に振りかけるのです。水素イオンは周辺を強い酸性状態にします。この酸性環境では骨の成分であるリン酸カルシウムは容易に溶かされてしまいます。破骨細胞は図1に示したようにこの溶けたカルシウムを波状縁と微小突起を使って細胞内に吸収します(骨吸収)。さらに破骨細胞はタンパク質分解酵素を分泌し、骨の主要成分であるコラーゲンをも分解して吸収します。こうして、破骨細胞に吸収されたカルシウムやリン酸、さらに分解されたコラーゲンは骨組織の中に分布している血液の中に移行し、全身を巡り、新しい骨組織作りの原料として再利用されるのです。
図1:骨組織を溶かして吸収する破骨細胞とそれをとりまく骨芽細胞と骨細胞
破骨細胞は5から20個ぐらい核を持つ大きな細胞です。骨にへばりつき、強い酸性液(水素イオン)とタンパク質分解酵素をふりかけます。その結果、骨組織が溶け液状になります。このカルシウム、リン酸、コラーゲンを含むスープ状の液を波状縁と微小突起で細胞内に取り込みます(骨吸収)。これらの分子を血液に送り込み再利用を促します。破骨細胞、骨芽細胞、骨細胞の三種の細胞は互いにコミュニケーションを取り合って、丈夫で安定な骨組織の形成が行われています。

破骨細胞による血中カルシウム濃度をコントロールする重要なホルモン。
破骨細胞の働きは多様な分子によって制御されています。その内の一つは「カルシトニン」と呼ばれるホルモンです。このホルモンは喉仏(のどぼとけ)の下に蝶のような形で存在する甲状腺から分泌され、破骨細胞の活動にブレーキをかけるのです(図2)。血中へのカルシウムの放出をほどよく制御しているのです。一方、破骨細胞による血中へのカルシウム放出を促進させる仕組みに関わる重要なホルモンがあります。このホルモンが甲状腺の表面に左右に2個ずつくっついている副甲状腺から遊離される「副甲状腺ホルモン(パラソルモン)」です(図2)。
吸収されて血中に移行したカルシウムやコラーゲンは効率よく再利用されますが、血中濃度を一定に保つために尿に溶かされた状態で体外に排出されます。破骨細胞は先のコラムで紹介した骨を造る骨芽細胞と密接な情報交換をしていることが明らかにされています(註1)。
カルシウムは今後のコラムで紹介しますが、身体全体のダイナミックな活動にも必須なので、いくら骨組織に沢山のカルシウムが蓄えられているとしても、リサイクルだけではとても補えません。カルシウムを含む野菜、海藻、牛乳、肉など食べ物やサプリメントで十分に摂取することが必要です。さらにカルシウムの腸からの吸収には活性型ビタミンD3が必要です。このビタミンD3を活性型にするのは副甲状腺ホルモンなのです。骨組織や身体全体を最適な条件で維持されるように血中のカルシウム濃度がコントロールされているのです。
図2:甲状腺と副甲状腺とその機能
甲状腺は喉仏の下に張り付いた蝶のような組織です。一方、副甲状腺はその甲状腺の左右に二ずつ発現しています。
註1 骨芽細胞と破骨細胞の間では情報交換が行われている
骨芽細胞と破骨細胞は全く正反対の機能を持っています。両細胞がどのような関係に在るのかは不明でした。破骨細胞が古い骨組織を破壊して吸収し、その部位に骨芽細胞が新しい骨を作って埋めて行くという仕組みが大阪大学の石井 優教授ら2光子顕微鏡像を用いた研究で明らかにされています。これは両細胞が勝手に骨組織をつくったり壊したりしているのではないことを見事に証明した成果です。

もう一つの骨組織内細胞:「骨細胞」の存在とその働き。
骨組織の中にはもう一つ特殊な細胞が分布しています。そのまま「骨細胞(こつさいぼう)」と呼ばれています。完成された骨組織の中に沢山、広く分布していますから、重要な機能を持っていると思われますが、未だに十分には解明されていないようです。
この細胞の機能についての学説その中で、私が最も説得力があると考えるのはこの細胞が骨組織に加わる圧力や歪みや重力などを感じて、骨芽細胞や破骨細胞にその情報を伝え、加えられる刺激に応じてより効率の高い骨作りを促す感知器(センサー)として機能するという同志社大学の竹上陽菜先生等の学説です(図1左)。
生活に適した身体の維持や激しいスポーツに耐える身体を造り出すことなどプラスの方向への機能の理解にも、病気や運動不足で身体が衰えていくなどのマイナスな現象の理解にも説得力がありますね。
以上のように、骨組織には骨芽細胞、破骨細胞、骨細胞の三種の特殊な細胞が分布し、それぞれの個性ある機能を発揮して、骨組織の強靱でありながら、しなやかな活動に貢献しているのです。
次回はこの仕組みに歪みが生じたために発生する疾患「骨粗鬆症」をテーマにします。
まとめ
- 破骨細胞は、古い骨を溶かして吸収し、新しい骨づくりの材料を再利用する重要な細胞である。
- 骨は常に「壊す(破骨細胞)」と「つくる(骨芽細胞)」を繰り返しながら、新陳代謝を続けている。
- 血中カルシウム濃度は、カルシトニンと副甲状腺ホルモンによって精密にコントロールされている。
- 丈夫な骨を維持するには、カルシウムとビタミンDの十分な摂取、そして適度な刺激(運動)が不可欠である。
監修
工藤佳久 先生
1964:名古屋市立大学・薬学部卒
1964-1968:興和株式会社東京研究所勤務(名古屋市立大学、和歌山医科大学、大阪市立大学・医学部へ国内留学)
1968-1978:名古屋市立大学 薬学部 助手、講師、助教授
1978-1995:三菱化学(三菱化成)生命科学研究所 主任研究員、脳神経薬理学研究室・室長、脳神経科学部・部長
1995-2005:東京薬科大学・生命科学部 教授
2003-2007:特定領域研究「神経グリア回路網」総括班長
【著書】「神経生物学入門」 (朝倉書店、2001年)、「神経薬理学入門」(朝倉書店、2003年)、「生命学がわかる」工藤・都筑共著(技術評論社、2008年)「改訂版 もっとよくわかる!脳神経科学」(羊土社2019)など