骨はどのようにして造られるのか 前編

「カルシウムと工藤先生の深い関係」

テニスと神経科学をこよなく愛する、工藤佳久先生。
3Aカルシウム」をきっかけにご縁をいただいてから、もう数十年のお付き合いになります。実は工藤先生、世界で初めてカルシウムイオン濃度を可視化(カルシウムイメージング)したという、神経科学界のレジェンド的存在。
そんな工藤先生が、今回は少し肩の力を抜いて、「カルシウム」の世界を語ってくださいます。研究の第一線で活躍する先生だからこそ伝えられる、ユーモアと深みのあるコラムです。ぜひお楽しみください。

私に起きたプチ奇跡

子どものころの私はチビで痩せっぽちでした。第二次世界大戦で敗戦国になってしまった当時の日本の国民の大半は食料不足でした。私の様な痩せたちびっ子が多かったのです。中学生になると食糧事情は若干よくなりましたが、育ち盛りにはとても十分とは言えない状態でした。

データによると私の時代(1950年代)の高校生の平均身長は、男子が160 cm女子は152 cmとのことでした。現代に比べるとかなり小さかったのです。クラスで真ん中より上位であることは、160 cmを越えていたことになります。いつの間にか自分が標準より大きくなっていたことを、その時初めて知ったのです。私にとっては信じられない奇跡でした。嬉しかった。

身長が伸びたということは、足の骨、手の骨、背骨が大きくなっていたということです。骨は硬くて丈夫であるという“常識”から考えると、そんな硬い物が知らないうちに大きくなったのは不思議でした。けれど、その重要な疑問については怠惰な高校生の私は何も調べることもなく、ちびっ子から脱出できた嬉しさに浸りました。

因みに現在の17才時の平均身長は男子が170 cm、女子は158 cmとのことです。これは間違いなく家庭や学校給食で摂ることができた栄養の差にあります。

監修

工藤佳久 先生

1964:名古屋市立大学・薬学部卒 
1964-1968:興和株式会社東京研究所勤務(名古屋市立大学、和歌山医科大学、大阪市立大学・医学部へ国内留学) 
1968-1978:名古屋市立大学 薬学部 助手、講師、助教授 
1978-1995:三菱化学(三菱化成)生命科学研究所 主任研究員、脳神経薬理学研究室・室長、脳神経科学部・部長 
1995-2005:東京薬科大学・生命科学部 教授 
2003-2007:特定領域研究「神経グリア回路網」総括班長
【著書】「神経生物学入門」 (朝倉書店、2001年)、「神経薬理学入門」(朝倉書店、2003年)、「生命学がわかる」工藤・都筑共著(技術評論社、2008年)「改訂版 もっとよくわかる!脳神経科学」(羊土社2019)など