骨粗鬆症と呼ばれるやっかいな病気(その1)

これまで4回のコラムでは、健康な骨組織は古い骨を壊し、同時に新しい骨を造って置き換える、そうした操作を繰り返すことで、長い一生の間、私達の身体は柔軟性と強靱さを保つことができるということを知りました。この地味ながら心強い仕事に携わっている骨芽細胞、破骨細胞および骨細胞の三種の細胞達の働きを理解したことは、丈夫な骨を維持する手がかりを知ったことになります。

そうです!骨の原料であるカルシウム、コラーゲンとカルシウムの吸収に必要なビタミンDが不足しないように心がけ、骨細胞に適切な刺激を与えて、骨芽細胞と破骨細胞を活発にすることが、丈夫な骨を維持する秘訣なのです。それほど難しいことではないと思うのですが、驚いたことに現在の日本では骨組織の一部が壊れてしまう「骨粗鬆症(こつそしょうしょう)」と呼ばれる疾患を持つ患者数が1000万人を越えているのです!

骨粗鬆症とはどのような病気?

この難しい病名の中の「粗」は「あらい、そまつ、おおざっぱ」という意味です。では、あまり見たことがない「鬆(す、しょう)」という漢字は何を表すのでしょう。“す”は本来、均質であるべきものの中にできた空間、大根に“す”がはいったとか、“すかすか”などあるべき部分が抜け落ちた状態を表しています(図1)。骨粗鬆症の意味はそのまま、「粗末で、空間だらけの骨になってしまった病気」ということになります。骨は身体を形作り、しっかりとした動きを司るための組織ですから、これはとんでもない病気です。

世界でも最も寿命が長い日本人には深刻な疾患です。高齢者が罹る疾患と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。極端なダイエットによって摂取するカルシウム、コラーゲン、ビタミンDなどが不足すれば若い人にも発症します。若年性骨粗鬆症じゃくねんせいこつそしょうしょう)と呼ばれ、決して少なくないのです。骨粗鬆症は骨折しやすくなるだけでなく、将来的に要介護状態や寝たきりの原因にもなるという危険な疾患です。骨が造られる仕組みについては先にお話したように、毎日、少しずつゆっくりと造られるのです。

だから、カルシウム供給不足の結果、骨が衰えてしまうと元の丈夫な骨に戻すためには長い時間が必要なのです。万一、骨粗鬆症になってしまったら、食生活、生活習慣を改善し、焦らず着実に骨を育てるしかないのです。

女性は骨粗鬆症(こつそしょうしょう)に罹りやすい。

ここでは十分な食料が得られる私たちの身の回りでの骨粗鬆症の発症について考えることにします。この豊かな食料事情のなかで骨粗鬆症に陥る原因は男性の場合ははっきりしています。朝はコーヒーとパンで、昼はラーメン、コンビニ弁当、そして、大切な夕食は酒を飲むことが先決、おつまみ程度の食べ物で済ませてしまう。これでは間違いなくカルシウムやコラーゲンの摂取不足に陥ります。それでも大きな問題は無く定年を迎え、身体を動かして鍛えることもしないという生活のままではで老化に至ります。このような食生活では骨粗鬆症に陥る可能性が非常に高いのです。異論がある方もおられると思いますが、これから説明する女性の骨粗鬆症の発症原因と知ると、骨粗鬆症に罹った男性は如何に無防備であったのかを自覚することになるでしょう。

何故、医療関係者はこれほどの骨粗鬆症患者を抱えて泰然としておられるのでしょう。信じがたいことです。  次のコラム6も骨粗鬆症についての話を進めます。

図の説明

図1 大腿骨上部の骨頭は見事な球形です。この球形の部分が骨盤に造られた丸い穴、寛骨臼(かんこつきゅう)にピタリとハマります。骨頭には軟骨(コラーゲン)の膜が張り付いており、寛骨臼の内側にも軟骨が張り付いていますので非常に滑らかに動きます。しかし、上半身を左右の大腿骨で支えるのですから、骨頭部が骨粗鬆症に陥ると、変形したり、崩れたりします。この状態に陥ると激しい痛みが生じます。

図2 年齢、性別による骨量の変化 骨量は幼児期から20歳までくらいに一気に増えます。その後、男性も女性も50歳まではほぼ横ばい状態です。50歳を過ぎると男女の骨量に大きな差が生じます。女性が閉経すると女性ホルモン(エストロゲンなど)が急速に減少するのが大きな原因です。50歳以上の部位に黄色の枠を示しましたが、この部分に入る年齢になると骨粗鬆症が生じやすくなるのです。女性は男性に比べて非常に過酷な状態に置かれていることがよく解ります。

まとめ

  • 骨は「壊して作る」を繰り返すことで維持されており、カルシウム・コラーゲン・ビタミンDの不足や運動不足が骨粗鬆症の主因となる。
  • 骨粗鬆症は骨がスカスカになり骨折リスクを高め、要介護状態につながる重大な疾患であり、日本では1,000万人以上が罹患している。
  • 女性は出産・授乳や閉経によるホルモン低下の影響で特に発症リスクが高く、早期からの栄養・生活習慣対策が重要である。

監修

工藤佳久 先生

1964:名古屋市立大学・薬学部卒 
1964-1968:興和株式会社東京研究所勤務(名古屋市立大学、和歌山医科大学、大阪市立大学・医学部へ国内留学) 
1968-1978:名古屋市立大学 薬学部 助手、講師、助教授 
1978-1995:三菱化学(三菱化成)生命科学研究所 主任研究員、脳神経薬理学研究室・室長、脳神経科学部・部長 
1995-2005:東京薬科大学・生命科学部 教授 
2003-2007:特定領域研究「神経グリア回路網」総括班長
【著書】「神経生物学入門」 (朝倉書店、2001年)、「神経薬理学入門」(朝倉書店、2003年)、「生命学がわかる」工藤・都筑共著(技術評論社、2008年)「改訂版 もっとよくわかる!脳神経科学」(羊土社2019)など