骨粗鬆症と呼ばれるやっかいな病気(その2)

先のコラムで述べたように日本では1300万人もの骨粗鬆症患者が痛みや運動障害に悩まされているのです。日本の人口から見ると10人に一人くらい、これでも十分多いのですが、老人として生きている私の周りの罹病率はやたら高く、骨粗鬆症患者だらけです。

関節の痛みや運動障害が生じて、初めて骨粗鬆症であることを知る人が多いのですが、殆どの場合はすでにかなり重症になっているはずです。この疾患の患者が多いのは長寿が大きな原因の一つです。命には歴然とした限界があるので、この種の病気は老人として避けられないものと勝手に悟っているのかも知れません。

人は「年相応」との診断が下ると、諦めてしまうのです。日本は医療大国です。医師も多く、病院も充実しているのに……。何とも寂しいことですが、それでも私達のささやかな防御策として、カルシウムを十分に摂取し、骨組織にほどよい刺激を与えることは間違いなく骨粗鬆症の発症を遅らせてくれます。

骨粗鬆症による障害を受けやすい骨

骨粗鬆症はどの骨にどのように生ずるのでしょうか。コラム2とコラム5でお話したように骨組織には硬く、しっかりした骨である緻密骨と、関節部分を担当し、柔軟な形で動きに対応する海綿骨があります。当然ですが海綿骨は緻密骨より骨量が少ないのです。そのためカルシウム不足の影響が顕著に生じるのです。

 図1に示したように、重い身体を支え、歩いたり、走ったり、激しく機能している脚の付け根(大腿骨の近位部)。身体の中心部を支え、筋肉や内臓への情報伝達に関わる神経の束を支えている背骨(脊椎椎体)。最近、しばしば耳にする脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)と呼ばれる疾患は運動神経線維や感覚神経の束の通り道である脊柱管が加齢(骨粗鬆症)崩れたために、神経線維が障害を受ける疾患です。激痛を伴う、厄介な疾患です。その他、激しい運動や様々な作業に使われる利き腕の付け根(上腕骨近位部)や腕とともに活発に動く手首(橈骨遠位部)などの部位が骨粗鬆症疾患を生じやすい部位です。

骨粗鬆症の予防と治療

カルシウムサプリメントは日本人には必須食品

繰り返しになりますが日本の骨粗鬆症患者は1300万人にものぼること、そしてその患者のうち、1000万人近くが女性であることです。世界でもトップレベルの医療環境を持つ日本でこんなひどい疾患が蔓延しているなど信じられません。

昨年ですが、テレビの健康番組に登場した骨粗鬆症専門の医師が、骨粗鬆症にならないためにカルシウムの豊富な食物を摂取するようにと説いていました。それに対して、番組に参加していたタレントの一人が「それなら、カルシウムサプリメントを摂取すればいいのではありませんか」と質問したのです。それに対して、その医師は「それはお勧めできません。過剰摂取になる恐れがありますから」と答え、出演者一同「なるほど、過剰摂取か……」と納得していたのです。この「過剰摂取」という言葉、とても厳しく響きます。しかし、通常のサプリメントでのカルシウム摂取が過剰摂取になるという根拠は私には思い当たりません。過剰なカルシウムは腎臓で再吸収されず、尿として放出されます。逆に言えば十分以上に摂取してやっと必要量を保つことができるということなのです。

日本の骨粗鬆症の現状は摂取するカルシウム量が少ないためだということは誰でも分かります。ならば、手軽に摂取できるカルシウムサプリメントは日本人、特に日本女性には必須の「食品」であると考えることは当然です。


図の説明

図1 骨粗鬆症による障害が生じやすい部位 強い圧力がかかったり、激しく動かしたりする部位ですから当然ですね。特に大腿骨近位部はほぼ身体全体を支える部位ですから生じやすく、厳しい病状に陥ることが多いのです。

図2 日本人のカルシウム推定摂取量と推定必要量 2020年の厚生労働省から報告された国民の栄養状態に関する報告書を参考にして描いたグラフ。「推定摂取量」(左)と「推定必要量」(右)ですが、何故か年齢の分け方が異なっています。赤点線枠で囲んだ年齢層に注目してください。働き盛りの30~60代の人たちのカルシウム不足が目立ちます。これはとても危険な気がします。女性と男性に分けてありますが、この報告書の担当者は女性の骨粗鬆症の多さの認識がないようですね。

まとめ

  • 骨粗鬆症は自覚症状が出にくく、気づいた時には進行しているケースが多いため、早期の意識が重要です。
  • 発症しやすい部位は身体を支える重要な箇所が多く、日常生活への影響が大きい疾患です。
  • 予防には、カルシウム摂取と適度な運動を継続的に行うことが不可欠です。

監修

工藤佳久 先生

1964:名古屋市立大学・薬学部卒 
1964-1968:興和株式会社東京研究所勤務(名古屋市立大学、和歌山医科大学、大阪市立大学・医学部へ国内留学) 
1968-1978:名古屋市立大学 薬学部 助手、講師、助教授 
1978-1995:三菱化学(三菱化成)生命科学研究所 主任研究員、脳神経薬理学研究室・室長、脳神経科学部・部長 
1995-2005:東京薬科大学・生命科学部 教授 
2003-2007:特定領域研究「神経グリア回路網」総括班長
【著書】「神経生物学入門」 (朝倉書店、2001年)、「神経薬理学入門」(朝倉書店、2003年)、「生命学がわかる」工藤・都筑共著(技術評論社、2008年)「改訂版 もっとよくわかる!脳神経科学」(羊土社2019)など