骨粗鬆症の回避するための食事とカルシウムサプリメント~高カルシウム血症の原因にはならない理由

日本人の平均寿命と健康寿命、そして骨粗鬆症患者の数

わずか3㎏で産まれる人間は急速に成長し、やがて18年前後で、骨格の形成が完成し、骨の端にある「骨端線」が閉じて身長の伸びが止まります。この後も私達の骨は日々新しく造り替えられ、 丈夫で強い組織として維持されます。厚生労働省のデータによると、日本人の平均寿命は男性が81.09歳、女性が87.13歳です。女性の平均寿命は40年連続で世界第1位となっています。これは誇るべきデータです。しかし、健康で自律的な生活ができる年齢を示す「健康寿命」は男子で72.57歳、女子が75.45歳で、平均寿命からおよそ10年も短くなっています。コラム5と6で述べたように日本には骨粗鬆症患者の数がおよそ1300万人、すなわち健康寿命と寿命の間にある高齢者の殆どが骨粗鬆症を患っているというゆゆしき事実が見えてきます。何度も言うようですが、このとんでもない事態に日本の医学界や国が特別な施策を講じているという話は聞きません。なぜこのように無防備な状態が続き、世界一の骨粗鬆症患者保有国という汚名に甘んじているのか理解できません。

高齢者には自助努力が必要です

コラム6に述べたように、日本国民の学校給食以降(15才以降)の一日のカルシウム摂取量(約400~500 mg)は推定必要量より100から200 mgも少ないのです。このデータは厚労省の国民栄養調査にもはっきりと示されています。これは国家的問題ではありますが、特別な対策が講じられている様子はありません。その理由はわかりませんが、国家プロジェクトとして高齢になるのを待たず、何らかの手を打ち、膨大な数の骨粗鬆症患者を減らすという策は実施の方法も予算的にも難しいからかも知れません。しかし、要は私達が意識してカルシウム摂取量を高くすればよいことですから、国の助けを待たず「自助努力」を講ずることが最も手っ取り早く、確かな対策です。

日本人の食生活は大きく変わってきたと思っていましたが、欧米の食生活に比べると未だに牛乳、ヨーグルトやチーズなどカルシウムを豊富に含む食品の摂取量は少ないようです。私の子供の頃は煮干しをおやつ代わりに食べました。また、三度の食事は貧しいものだったけれど、骨ごと食べられる小魚(じゃこ、ししゃも)、海藻(ひじき、昆布)、緑色野菜、豆腐や納豆などの身近で安価な食品を食べて育ちました。実はこれらの食材にはカルシウムが豊富に含まれているのです。しかも、大豆に多く含まれるビタミンKは骨組織へのカルシウムの定着を促進する効果があります。したがって、一日三回の食事に意識してカルシウムの多い食品を摂るようにすれば、それだけでも目的を達することはできそうです。しかし、結果として不足しており、骨粗鬆症に陥っていることを知ってから慌てるよりは、50才を過ぎたことからカルシウムサプリメントを摂る習慣を付けておくことをお勧めします。

因みに私(現在86才)は30年近く、毎日カルシウムサプリメント(フジックスの3Aカルシウムや活性コラーゲンなどを含む「人体活性」)を摂っています。体組成計(我が家にあるタニタの体重計)で計測している私の推定骨量は2.8 Kgを保っています。体重は65 Kgですから、標準値がしっかりと保たれているのです。老人だから骨粗鬆症になるのでなく、自身の食生活や健康ケアが不十分だから骨粗鬆症になるのです。先回にも述べた「カルシウムサプリメントはカルシウムの過剰摂取の危険性がある」という認識が医師にも一般人にも浸透しているのかもしれません。確かに「高カルシウム血症」と呼ばれる疾患はあります。この疾患が過剰なカルシウム摂取が原因であると考えられることもあるかもしれません。そこで、この疾患の実体を調べてみました。

高カルシウム血症という疾患の実体と原因

では、高カルシウム血症ではどのようにして血中カルシウム濃度が「異常」に高くなるのでしょうか。コラム4で骨組織のカルシウムのリサイクルシステムに関わる「破骨細胞」とその細胞を活性化する「副甲状腺ホルモン」について解説しました。正常な状態では副甲状腺ホルモン(パラソルモン)は必要に応じて必要なだけが分泌され、それによって破骨細胞が活性化され、古い骨を溶かして必要とされるカルシウムを血液中に放出します。しかし、この組織が何らかの原因で異常となって副甲状腺のホルモンの分泌が異常に高まることがあるのです。そうすると、破骨細胞は過剰に活性化され骨が壊されますので血中カルシウム濃度は異常に高くなります。この異常が生ずる原因疾患が原発性副甲状腺機能亢進症です。これによって、副甲状腺ホルモンの異常分泌が生じます。また、他の部位に発症した悪性腫瘍(がん)副甲状腺に転移して生ずるパラソルモンの異常分泌もあります。この二つの疾患によるカルシウム異常上昇が高カルシウム血症の約90%を占めます。ビタミンD過剰摂取なども原因になります。この種の高カルシウム血症が重症化すると意識障害や昏睡に至る危険があるため、早期の診断と治療が必要です。しかし、この副甲状腺異常は非常にまれな疾患です。

カルシウムサプリメントがカルシウム過剰投与になるという恐れは、それぞれのサプリメントに記されている一日摂取量を守ればよいのです。過剰なカルシウムは腎臓で濾過された後、再吸収されず尿に排出されます。正常な身体には血中カルシウム濃度を安定にするしっかりした仕組みが備わっているのです。すなわち、摂取量を守れば、カルシウムサプリメントが高カルシウム血症を引き起こすことはないのです。

骨粗鬆症に陥る前の策

男女を問わず50代になったら、体組成計で骨密度を調べることを習慣にすることをお勧めします。骨密度が平均値より低くなったり、骨粗鬆症の疑いがあると診断されてから、カルシウムの摂取に気遣うのではなく、日頃から積極的にカルシウム含量の高い食品を摂取するよう習慣づけることが重要です。また、必要に応じてカルシウムサプリメントの摂取を開始するなどの手を打つことも必要です。特に女性の場合は閉経後、急速にカルシウム不足になりますから、その時点をカルシウム作戦開始の時期と決めておくべきです。それが老後を快適に過ごすため当然の策と心得ておいて下さい。

今回で、骨組織のカルシウムについてのお話はひとまず終わりにします。次回以降は心臓や筋肉の動き、そして、記憶を始めとする多様な脳の機能など、身体中で大活躍するカルシウムの姿をお伝えします。


図1 適切なカルシウムサプリメントを投与すれば高齢者の骨量も増大させることができる。

骨粗鬆症治療と研究で世界に知られた藤田拓男先生(故人)(神戸大学名誉教授:国際骨粗鬆学会会頭)が四名の骨粗鬆症で入院された高齢者の協力を得て行われた臨床実験の結果です。69才から96才までの骨粗鬆症患者に一日900mgを1年間処方した結果です。年齢が若い方が有効性が高いようですが、一番の高齢者(96才)についてはさらに1年間投与を続けたところ、13.5%まで増大しているのです。この結果は藤田先生も非常に驚いたと言っておられました。

まとめ

  • 骨粗鬆症を予防するためには、50代以降は骨密度を定期的に確認する習慣を持つことが大切です。
  • 日頃からカルシウムを多く含む食品を積極的に摂取し、骨の健康維持を心掛けましょう。
  • 必要に応じてカルシウムサプリメントを活用し、骨粗鬆症になる前から対策を始めることが重要です。

監修

工藤佳久 先生

1964:名古屋市立大学・薬学部卒 
1964-1968:興和株式会社東京研究所勤務(名古屋市立大学、和歌山医科大学、大阪市立大学・医学部へ国内留学) 
1968-1978:名古屋市立大学 薬学部 助手、講師、助教授 
1978-1995:三菱化学(三菱化成)生命科学研究所 主任研究員、脳神経薬理学研究室・室長、脳神経科学部・部長 
1995-2005:東京薬科大学・生命科学部 教授 
2003-2007:特定領域研究「神経グリア回路網」総括班長
【著書】「神経生物学入門」 (朝倉書店、2001年)、「神経薬理学入門」(朝倉書店、2003年)、「生命学がわかる」工藤・都筑共著(技術評論社、2008年)「改訂版 もっとよくわかる!脳神経科学」(羊土社2019)など